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執筆:HUB Tokyoファウンダー槌屋詩野

 

HUBができてから満3ヶ月。

よちよち歩きだけど、私たちはビジネスとして立ち上げた。HUBの意味も考えて、法人形態も色々悩んだが、結局、K.K. つまり株式会社で立ち上げた。そして、私たちの中に入ってくれるメンバー達も、同じように悩みながら起業して、これから日本社会に挑戦していく人達が集まっていて、お互いの状況をシェアしあっている。

この間の金曜、HUBコミュニティの中で大きな役割を果たしてくれているWebsterのメンバーが新しい社員が増えたので、と飲み会に誘ってくれた。入居してからまたさらに成長し、新しい人を一人雇ったのを祝福した。こうやって、一人、一人、雇用が増えていく。それぞれの事業が成長し、拡大していく。

そして、その喜びも、苦しみも、シェアしていく。全く孤独な気がしない。これがHUBの良いところだ。

 

1年前、私が最初に東京でのHUBを今のメンバーとなってくれた人たちに話しかけた時、私は「ここを基地にする」と語った。「次の世界、今とは違うもう一つの世界を見ようとする人たちが、山登りのごとく辛い道を歩む上で、その山の中腹で一休みし、仲間と飲み食いし、これからの道を語り、成功するための具体的なステップやスキルをシェアする場所としたい」と語った。

山の中腹にある基地/ベースキャンプ。ここで我々は、試練ある未来に向けて、戦略をたてる。そして、同じように出発しようとしている仲間と、戦略をシェアしていく。

 

この発想は、私が10年以上持っていた、1つの根本的なフラストレーションから来るものだ。元々、私はかなりのアクティビストで、通称「NGOビル」と呼ばれる仲御徒町のビルで、自分のキャリアをスタートした。署名を集め、シュプレヒコールをし、ウェブでのアドボカシーキャンペーンを張った。充実した日々だったが、社会に対して自分が実際に作り出しているインパクト(効果)を実感できなかった。

 

だが、世界各地で果敢に挑戦し続ける起業家を目の当たりにして、目から鱗が落ちた。自分が求めていたスケール感、インパクトの深さはここにあった、と理解した。その後は、スポンジが水を吸い込むように、死にものぐるいで、こうしたインパクトを生み出す事業を作り出すために必要なものは何か、それを実現させる周囲の環境やヒトモノカネとは何かを、探しまくった。

私が最初に出会って衝撃を受けたのは、MIT出身でソーラーパネル発電をインド中に普及させることに成功した起業家。彼のしたたかな販売戦略、競合を意識したValue Propositionの提示、タフな交渉力、そして投資家をきちんと引きつけるビジョンと明晰な頭脳。だが、彼の顧客は今まで誰もアクセスしなかった消費者である最貧困層のスラム街の女性達であり、さらにそこにマイクロファイナンスをひも付けて商品を提供する、という非常に手のかかるビジネスである。でも、彼は自分が起こそうとするイノベーションがなんなのかを明確に理解していたので、ちゃんと勝算があった。インドで最も大きい電力会社が最大のコンペティターであったが、最後にはその競合がパートナーとなってジョイントベンチャーを作った。

 

私からみて、彼らの戦略は、当時の日本の「社会起業家」と呼ばれる人たちよりもスケールがでかく、意欲的/野心的であり、そして何よりもビジネスバックグラウンドが強かった。ちょっとやそっとのインパクトでは満足せず、常に高みを目指している。そのため成長が速い。集まる人材も優秀である。日本の「ソーシャル」文脈における、ミッションとパッションを強く追求する内省的な方向性は大変重要な流れではあるし、それはそれで否定しないが、それに重きを置きすぎることに対しては、私は違和感を抱いている。実は、「パッションだけを語るだけで、意外とすんなりお金が降りてしまう」という、資金調達側の緩さが強く関係している。

 

先週末もHUBメンバーで、東北支援活動や起業家支援を行っているメンバーと、HUBのキッチンスペースで立ち話から語り合いになった。

「今、一番問題なのは、お金がおりてしまうこと。そのお金がサステイナブルではないし、そのお金でその組織が成長するように設計されていない。ただ、お金がおりてしまうので、NPOやプロジェクトを作っている。その人たちの2−3年後が心配です。」と話していた。HUBに集まるメンバー達は、次のビジネスを探す人たちなのでビジネス志向が強い。そのため、パッションだけでは不安だ、という言葉はよく聞く。

 

3.11以降、日本の「ソーシャル」文脈はがらっと変わった。クラウドファンディングがもてはやされはじめたのも、その最たる潮流の一つ。しかも、急に「流行った」から、始末が悪い。観衆側に十分な教育ができていないまま、スタートしてしまったのだ。本来、クラウド(群衆)が集合知的にプロジェクトを審査して、サポートという名を借りて、自然淘汰されていくのが、クラウドファンディングの良さである。だが、そのデューデリジェンスを理解できている人が少ないまま、寄付市場が勃発的に拡大し、膨らんだのである。

なので、私は、日本のクラウドファンディング・プラットフォームに、まだ懐疑的である。これから、プラットフォーム同士の淘汰や競争、プラットフォーム運営者の業界自体に変革が起きない限り、本当に資するプラットフォームになっていかない。

 

我々も当初、クラウドファンディングを資金調達のメソッドとして組み合わせることを考え、検討したのは去年の8月。当時、日本のプラットフォームは異常に手数料が高いことと、その割に大したコンサルティングもしてくれないので、我々のいたステージやチームには資金調達コストが高すぎる手法として断念した。実際、他の国のHUBが利用したクラウドファンディングやその実情などとも比較し、日本のクラウドファンディング市場のあまりのお粗末さにびっくりしたのだった。

 

クラウドファンディングのもう一つの効用は、プロモーション効果。だが、昨年8月の段階で日本市場にあったクラウドファンディング・プラットフォームが提供できるプロモーション効果は、あまり大きくなく、そこに労力をさくよりも、自分たちでリーチできる相手に集中しようと判断した。ソーシャルメディアにかかる人材コストをふまえると、多くの人から寄付をもらったとしても、かなりの割合がプラットフォーム業者とそれにかかるコストに落ちてしまい、そのこと自体の透明性や説明責任も難しいのではないか、と分析した。

(時と場合とチームのナレッジと状況によるので、もし、「自分はクラウドファンディングを使うべきか」について悩んだら、私に相談にきてください。メリット、デメリットを全て比較し、調査しています。)

 

コレクティブ/集合知というものは、ソーシャルメディア時代に一つの素晴らしいソリューションとして私たちの前に登場し、クラウド(群衆)がファンドする過程の中で「良いプロジェクトとそうではないプロジェクトを見分け、淘汰する」という民主的なプロセスが加わったことは、非常に素敵なことである。

だが、往々にして、全ての「民主制度」に言えることであるが、全ての参画者が平等の情報とそれを判断するだけの知識と経験を持たない限り、「衆愚政治」になるのである。なので、日本の民主制の悪い点が、そのまま相似形で、クラウドファンディングに現れてくるのを危惧している。

 

その兆候は、「ポピュラリティ」である。日本の投票は、感情に訴え、共感を呼ぶ人やモノにあっという間に偏りやすい。芸能人が政治家になれるのも、政治的ポリシーがはっきりしない人が政治家になってしまえるのも、この日本の政治の特徴を物語っているが、同じ状況が現在のクラウドファンディング市場にも見られる。プロジェクトとして、その資金が本当に有効に使われるのか、また、レバレッジが効く投資になるのか(金銭的にもインパクト的にも)がはっきりしないまま、「いいね!」が押されてしまい、それが習慣化する。

 

これは、観衆側の問題だけではなく、プロジェクトをリードするリーダー達に1つのスキルセットが欠けていることが問題なのである。それは、ビジネスとしての成功要因をきちんとストーリーテリングに入れる、ということ。その上で、共感を呼ぶものを作り上げていく、ということである。海外で多数の社会起業家と呼ばれる人たちのピッチを見てきたが、日本で話されるものと圧倒的に違うのは、自分たちが到達すべき目的と実績について、きちんと数字で語ることができ、かつ、それが自分のパッションと一本筋が通っているストーリーを話すことができる、という点だ。そういうことが当然として要求される環境にいるし、それが教育の中に組み込まれている。

 

だが、そのようなピッチを見る機会は、日本では数少なく、それが故に、多くの日本の投資家は投資先が無いと言って悩んでいる。その一方で、クラウドファンディングに挑戦する人たちが雨後のたけのこのように表出してきているが、ストーリーテリングやビジネス側面に誰も適切なメンタリングをしないため、相変わらず成長しない。一向に、彼らのプロジェクトがクラウドファンディング後、6ヶ月や1年たって、投資家から投資を受けるような資金調達のレベルに達するように見えないのは、そのせいである。そして、「それでいい」と思っている人も多い。

 

HUBでは、3年後にインベストメント・レディな起業家が輩出される組織になる、という目的を、1年前から掲げ、声を大にして伝えてきた。「それでいい」と思う人たちは対象ではない。「それでいい」とは思えない人たちが対象である。私たちは、「それでいい」とは思えない人たちが、コミュニティを作り、一つの学習する組織として、面でシフトアップしていく状態を作るのが目的だからだ。

 

クラウドファンディングについて語る本音トークイベントを6月頭に開催しようともくろんでいる。(もっと現在のクラウドファンディングについて理解し勉強し、もしかしたら、今後私たち自身がクラウドファンディングを開始するかもしれない。)

 そして、我々が1年前より計画してきたインベストメント・レディな起業家達を輩出するためのプログラムは、まさに6月よりスタートする。現在、たくさんのインスパイアされるような仕込みをしているところなので、期待していてほしい。

 

shino【執筆者プロフィール】

株式会社Hub Tokyo 代表取締役 槌屋詩野

国際NGO勤務、シンクタンクでのイノベーションリサーチを経て、起業。世界中のチェンジメイカーとなる起業家達が接続するコラボレーションネットワークとしてのHUBに、東京から参画し、HUBの経営、日本でのブランディングを見る。現在、HUB内にて「番頭」として活動し、HUBに集まるメンバーの事業成長、コラボレーションに様々な形でコンサルティング中。

 

 

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