執筆:HUB Tokyoファウンダー マネジメントチーム  ポチエ真悟

起業家を育てる仕事の目線から

私のまわりには、たくさんの起業家がいる。
みな、それぞれの思い、夢、事情があって起業しているわけだが、人間そのものがユニークであるように、起業家たちはみな、本当にユニークだ。
最近HUB Tokyo で主催した、アントレプレナーシッププログラム「Team 360」では、準備中の起業家やローンチ間もない起業家6人でチームを作り、技術的な話やメンタル的な話を徹底的に行った。
各セッションでは決められた課題について、チーム全員がへとへとになるまで語り、議論した。その6人達は、それぞれ全く違うジャンルのアイデアの持ち主たちで、これから全神経を自分の事業に投入しようとしている。私にとって誇りに思えるチームだ。
そんな起業家たち、起業家に興味がある人たち、また、そういった起業家を育てる仕事をする仲間たちと、よく議論するのが「アントレプレナーには誰でもなれるのか?」という疑問だ。

アントレプレナーの成功、とは何を指すのか

まず、これを話していると、必ず「アントレプレナーになるには生まれ持った才能が必要であり、限られた人間しかなれない」といった意見の持ち主が現れる。そういう人たちは、たいていの場合、Mark Zuckerberg、Steve JobsやBill Gates等を「アントレプレナー」として想定している。
そして、そういう人たちはこう言う。「アントレプレナーとは、偉大な人であり、成功者を指す。凡人がいくら頑張ってもやはり限界があり、そこまでは成功できない。だから天性なのだ。」
だが、この議論を聞いていると、必ず私の頭に浮上してくる疑問がある。
「じゃあ、成功していなければ、アントレプレナーとは呼ばないのか?」
もちろん、その疑問をなげかけると、次は「成功」の定義についての議論が始まる。資産、買収額、年収、そのアントレプレナーがもたらした変革(Disruption)の度合い。だが、どれをとってもこれは比較の問題なので、正確には答えは出ないものばかりだ。

運が強ければいいわけじゃない

次に、これに近い議論で、「アントレプレナーにはやっぱり運が必要ではないか」という議論がある。成功するには運が必要だからだ。(そして、多くの場合、起業を躊躇している人やまだ事業がうまくまわりはじめていない起業家が言うのだが。)
だが、運や才能を主張する人達がよく忘れるのが、どんなアントレプレナーであれ、相当な努力をしたということだ。起業をした人なら誰でも直面する、永遠に終わらない仕事の山。起業家は、この山のような仕事をどうこなすか、どう効率良くこなすか、どう仕事を減らすかばかり考えている。
多くの場合、起業後の仕事量の方が、サラリーマン時代よりも圧倒的に多い。運が良い起業家は、この量を少しでも減らせることができ、平均よりも早いタイミングで利益を出すことが出来るかもしれない。
だが 、努力と運の相関関係は全く明らかではない。運が良くても運をつかめる器量や体力がない場合もあれば、怠慢により運を逃す場合もある。また、悪環境で努力をしつづけても必ずしも運をつかめるわけではない。
アントレプレナーになるには運がいい方がよいが、絶対運が必要かどうかは不明だ。

起業家の種類に違いはあるのか?

そうして最後に、こういった話をしているとき、必ず私が問いかける、答えのない質問がある。「では花屋ってアントレプレナーなの?」(※花屋は単なる例えであって、場所と時間があれば比較的始めやすい仕事のことを指している)
途上国等に行くと、10歳の子供が仕事をしている。この子供達は、ほぼ100%、生き残るために仕事をしている。雇ってもらえることなどまずないので、自分で仕事を創りだし、独立した起業家として仕事をするようになる。
この子供と、花屋、そして、年商数十億以上の起業家の違いは何か?そういう議論に行き着く。
こういった議論を多く繰り返してきて、最近思うことがある。成功、運、事業のサイズ。この3つの疑問は全部本質じゃないのだ。

「アントレプレナー」が他と違う理由

アントレプレナーと呼べる人たちが、ここで例えで取り上げた花屋と違うのは、そこにはパッションがあり、彼らのサービスや商品は、革新的で、拡張性があるからだ。(※逆にそういう花屋もいるだろう)
さらに、彼らの起業の理由が重要なのではないか。何かを変えたくて始めた人なのか、生きるために仕方なくやっているのか。
そして、さらに、私はこれらのパッション、革新性、拡張性といったものは、起業後の失敗などを重ねてこういった要素を習得する人たちがいるのを見ると、これらの要素の全てが最初から必要では無いように思う。全て、学びながら習得していくことができるものではないだろうか。

一番気になるのは、アントレプレナー「シップ」

アントレプレナーであるかどうか、そもそも起業家であるかどうかはその人が決めれば良い。
ミュージシャンが自分のジャンルをそれぞれ定義するように、自分が「どのようなビジネスパーソンか」は自分で決めれば良いのだ。
毎日、多くの起業家に会うようになって以来、私がもの凄く気にしていることは、「アントレプレナーシップ」だ。その人に「アントレプレナーシップ」があるかどうか、は、まさにミュージシャンに「ソウル/魂」があるのかどうか、と考えるのと一緒である。
アントレプレナーシップを持っている人が皆アントレプレナーとは限らない。宗教家、農家、サラリーマンにもアントレプレナーシップを持った人達はいる。
アントレプレナーシップに溢れる人たちは、みな、目がギラギラしていて、常に質問やアイデアに満ちあふれている。そして、なによりも、金を生み出すことよりも、ビジネスや生き方を追求することの方が楽しい人が多い。アントレプレナーシップは本や学校からは学べない。なぜなら、アントレプレナーシップにはある程度の「悪さ」も必要だからだ。
どんな組織や常識そして手法にも必ず変革の余地があり、「革命を起こさなければいけない」、といった考え方がイノベーションを生み、人類の進化の一部になる。
そういった考えがアントレプレナーシップを強くさせ、人に影響を与え、世の中にアントレプレナーを増やしていく。

金への情熱ではなく、切り抜けられるパッションがあるかどうか

「裕福になりたいのであれば起業するな」とよく言われる。もちろん、裕福になれる起業家は割合的には低いが、この言葉には別の意味もある。利益を追求しすぎると、アントレプレナーシップを失う、そしてアントレプレナーシップが低い起業家は失敗するからだ。
Team360に参加したアントレプレナー達がこれからどのような成果を上げていくはまだわからないが、一つだけ確実な事がある。それは、彼らの持つ誰にも負けないアントレプレナーシップだ。
彼らはこれからパートナーや投資家を探し、説得していく必要がある。これから彼らが説得しなければいけない人達は、各分野のプロであり、達人である。その人たちは、その気になればアントレプレナーのアイデアを盗み、自分のチームと資金を使って、そのアントレプレナーより先に事業を作ってしまうことだって出来てしまうだろう。
そうさせずに、このアントレプレナーのアイデアを聞き、投資をしたり、チームに参画させるには、それぞれのアントレプレナーが持つ「アントレプレナーシップ」が重要なのだ。
そのアントレプレナーにしかそのアイデアはビジネス化できないと信じ、そのアントレプレナーがこれから築いていくストーリーの一部になりたいと思わせるアントレプレナーシップ。マニュアルのない、リスクの高い仕事を好んで選び、どんな苦境もチーム、頭、経験等を生かし、きりぬけていく力がアントレプレナーシップだ。

誰もがアントレプレナーシップを持つが、日常で実践していない

私は、「誰でもアントレプレナーになれるか?」という質問には、「それなりの努力をすれば多分誰でもなれる」と答えている。「誰でもアントレプレナーシップに満ち溢れたアントレプレナーになれるか?」という質問には「無理でしょう」と私は答えている。
というのも、私は、人間は誰でもアントレプレナーシップを持って生まれてきていると信じているが、それに気付くかどうか、それに気付きたいかどうかは人それぞれだからだ。また、アントレプレナーシップのある人生が楽しいかどうかは人によって違う気がする。人々が皆アントレプレナーシップを持つ世界は、それはそれで、現状の経済や秩序が成り立たなくなるのも理解できる。
そういった中でも、アントレプレナーシップを追求する人達と毎日仕事ができる自分は幸せであるし、本当に楽しいことである。そして、私はその人達を尊敬してやまない。
Impact HUB Tokyo Co-founderポチエ真吾
Impact HUB Tokyo Co-founderポチエ真吾

【執筆者プロフィール】株式会社Hub Tokyo 取締役 ポチエ真悟

フランス人と日本人の両親を持ち、イギリスで育つ。ロンドンにて大手金融機関で投資/債券取引業務を経験した後、エネルギー市場に興味を持ち独立。その後、スタートアップの戦略立案に関わるようになり、スタートアップ専門家としてロンドンで活動。アントレプレナーシップや、日本での起業におけるチャレンジを変えていくことに興味を持ち、HUB Tokyo設立に関わる。財務、チーム編成、事業開発を担当し、日本らしく、かつグローバルに通用するアントレプレナーシップを追求し、起業家を育成中。

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