HOSTS’ STORY vol.2 メンバーとコミュニティビルダー

コミュニティのファシリテーター「コミュニティビルダー」

Impact MAKERが集うコワーキングスペース、Impact HUB Tokyo。そこにはコラボレーションが生まれるための様々な仕掛けが散りばめられています。前回記事では、空間設計やファシリティといったハードの面からその工夫を紹介しました。しかしどれほど良い空間を用意して、そこに多様で面白い人たちを集めても、それだけではイノベーションは生まれません。新たなアクションが生まれるには、ハードに加えてソフト、つまり人と人の関係性に働きかけてコミュニティを活性化する仕組みが必要なのです。今回はコミュニティを支える「コミュニティビルダー」に注目して、その仕組みを紐解いていきます。

Impact HUB Tokyoの「コミュニティビルダー」は、コミュニティのファシリテーターです。その役割は多岐にわたりますが、大きくふたつ。ひとつめは、コワーキングスペースを利用するメンバーが心地よく仕事をするための管理者という役割です。メンバーが余計なことに気を取られず100%仕事に集中するうえで、コミュニティビルダーの存在は重要です。例えば会議室の予約確認からファシリティの使い方、そして機材のトラブルまで、コミュニティビルダーが常駐して対応することで業務をスムーズに進めることができます。

WhatではなくWhyでつながるコミュニティ

コミュニティビルダーのもうひとつの役割は、積極的にコミュニティを活性化するファシリテーションです。コミュニティビルダーがいなくてもコミュニティは存在しますが、適切に働きかけることによって、より活気にあふれ、アイディアに満ちたコミュニティへと変わっていきます。異文化コミュニケーションのプロフェッショナルであるコミュニティビルダーのひとり、岩井美咲はその役割をこう表現します。

「Impact HUB Tokyoのコミュニティにとって、コミュニティビルダーは触媒のようなもの。参加したてのメンバーが場に馴染むサポートをしたり、メンバー間の化学反応を促進したりする役割を担います。日々のコミュニケーションを通してメンバーが抱える困りごとや関心を察し、タイミングよく必要なメンバーとつなげたり、共通した課題を抱えているメンバーがいれば、チーム・ラーニングの機会やイベントを企画したりすることもあります」

こうした取り組みを重ねながら、コミュニティを観察するなかで発見したことは、イノベーションが生まれるには、もうひとつの条件が必要だということでした。それはメンバーを「WHATではなく、WHYでつなぐ」ということです。

「人は新しい関係性を作るとき、何をしているのか、どんな立場の人なのか、といった外面的な事象、つまり”WHAT”に注目します。それでもコラボレーションは生まれるのですが、より深い、イノベーションと呼べるような成果を生み出すには、私はこういう問題意識を持っている、これが好きで仕方がない、という”WHY”でつながることが必要です」

WHATのレベルでも、コラボレーションは生まれます。例えばデザインを強化したい企業は、デザイナーと「何が不足している、何ができる」という情報を共有すれば、凹凸を埋めるように新たな連携が生まれます。それは既に生まれたものが、より大きく深く改善されていく連続的なイノベーションのプロセスであるということができます。

一方、非連続的なクオンタムリープ(量子的飛躍)のプロセスはより複雑で、往々にして直線的には進みません。「私はこのことがどうしても気になる」といったモヤモヤを多くの人たちに投げかけ、対話を重ねるなかで少しずつやるべきことが明確になっていきます。そのプロセスに巻き込まれた人たちは、機能ではなくパッションや共感でつながるため、従来には全く予想もつかなかったコラボレーションや、結果としてのアクションが生まれてくるのです。

見えているのは氷山の一角

コミュニティビルダーは、こうしたイノベーションが起こるプロセスを理解し、日々のちょっとした会話からメンバーの”WHY”を拾い上げ、一見共通点がなく、そのままでは接点がなかったであろう人たちをつなげています。そのはたらきを岩井は氷山に例えます。「海に浮かぶ氷山の目に見える部分はほんの一部で、そのほとんどは水面下にあって見えません。この水面下をいかに洞察して、そのレベルでメンバーをつなげられるかが、コミュニティビルダーの腕の見せ所です」Impact HUB Tokyoのコミュニティビルダーもまた、目に見えない水面下でコミュニティを支えています。

コミュニティビルダーの“サポート”の本質とは?

一方、岩井はこうも語ります。「コミュニティビルダーからの“サポート”を期待する受け身の姿勢のメンバーよりも、貪欲に自ら動き回り、必要な情報にアクセスしたり、さまざまなメンバーとつながろうとするメンバーの方が成功するようです。それが、私たちが5年間の現場経験から発見した事実でした。」なるほど、たしかに“受け身の起業家”のパフォーマンスには、限界がありそうです。

Impact HUB Tokyoは、投資家や企業のベンチャーキャピタルをバックにしたコワーキングスペースやインキュベーターではありません。したがって、投資や資金調達面でのサポートが用意されているわけではありません。また、行政や企業が運営するインキュベーターでもないため、士業のアドバイザーが常駐することもありません。

その代わり、ベンチャーキャピタルが投資したいような事業の型へはめることもなく、起業のリスクを負ったことがない人が、中途半端なアドバイスをすることもありません。Impact HUB Tokyoの行う「サポート」の肝は、メンバー間のスキルや知識や経験がシェアされ有機的につながるように仕組みをつくること。Impact HUB Tokyoにおいて、最も効果的な「アドバイザー」となるのは、コミュニティのメンバーたちなのです。

例えば、起業を何回も行っているシリアルアントレプレナーのメンバーが、定期的に時間を決めて相談にのったり、プログラマーやエンジニアのメンバー同士のコーディングキャンプが行われたり、良い人材をお互いのネットワークの中で融通したり、デジタルマーケティングのアイデアを出し合ったり、会計や総務や補助金に関する知識をシェアしたり、事業発表のプレゼン練習にフィードバックをしあったり。メンバーの中には、経営戦略、ブランディング、SEO、デジタル・マーケティング、ハードウェア開発、などのコンサルティングを行う人々も多く、そう言った方々から詳細のアドバイスをもらえることもあるようです。これらの相互の関わり合いが発生しやすいように、有形無形の介入をしているのがコミュニティビルダーです。

コミュニティには、「Give」した分だけ、「Get」を得られるもの。コミュニティの価値観を理解し、他のメンバーとつながり、自らの経験や知見をシェアするなど、お互いに貢献しあう清々しい気持ちの持ち主なら、誰でも、必要なリソースの大半にアクセスできるでしょう。

起業家と同じ目線に立つ、コミュニティビルダー

また、Impact HUB Tokyoを運営する株式会社Hub Tokyoも、2012年に会社を設立した創業7年のスタートアップです。もちろん、楽しいことにも恵まれたでしょうが、決して利益を出しやすい事業ではないコワーキング事業を継続するために、様々な試練を乗り越えてきましたチームでもあります。

創業以来、ファウンダーも現場に出入りし、コミュニティのメンバーの相談にのっています。海外との事業提携や研究開発のプロジェクトマネジメントに精通する槌屋と、金融関連の経験が豊富で投資家の目線で物事を考えることができるポチエの2名の共同創業者は、今も常に新しい事業を創造し続けており、株式会社のみならず一般社団法人や海外との合同会社も設立しています。そのような多岐にわたる事業開発の経験から、メンバーと同じ起業家の目線で、Impact HUB Tokyoを運営しています。

 

Impact HUBのグローバル・ネットワーク

Impact HUB Tokyoが、国内の他のコワーキングスペースと異なる点の一つに、海外のImpact HUBとの強力なネットワークが挙げられます。世界中で稼働しているImpact HUBは50カ国100都市に存在し、メンバーのネットワークは16,000人を超えています。さらに、現在も複数の都市で開設準備中で、ますますのひろがりをみせています。コミュニティビルダーによるコミュニティ運営は、すべてのImpact HUBに共通しているのです。

メンバーが次に旅行する、または出張する都市に、Impact HUBはある可能性は高いといえるでしょう。そんな時、Impact HUB Tokyoのメンバーは、グローバル・パスポートという形で、他のImpact HUBを利用することができます※。ちょっとWifiにつながりたい、今日は1日集中して仕事ができるワークスペースが欲しい、などという時にも、オンラインのフォームから利用の申請をすることができます。

また、面白い起業家や特定の事業分野の専門家などが他の都市のImpact HUBのメンバーである場合、運営するホスティングチームを通じて、ミーティングのアポイントメントをとることもできます。実際に、Impact HUB Tokyoのメンバーが他の都市のImpact HUBのメンバーにつなげてもらい、スカイプや電話会議でミーティングをしたケースもあるそうです。

もちろん、Impact HUB Tokyoでも、他の都市のImpact HUB から東京を来訪するメンバーたちを受け入れています。各都市のメンバーが、Impact HUB Tokyoのコワーキングスペースを利用したり、Impact HUB Tokyoのメンバーと交流することがあります。その際にも、コミュニティビルダーが、活躍しています。

※各都市のImpact HUBを利用する場合、現地のImpact HUBの利用規約やルールに従います。

(取材・構成:石川孔明)