Impact HUB Tokyo

Hosts' STORY

vol.1 空間は、コミュニティの実験のためのラボ

2017.08.07
Pocket

オープンで、柔軟な、多機能空間

開設当初から変わらない運営方針は「People First, Space Later」(人が先、空間は後)。「空間は後」とはいえ、重要なファンクションのひとつであることは、言うまでもありません。今回は、Impact HUB Tokyoの「Space」に対する考え方を紐解いていきましょう。

目黒駅から坂を下った住宅街の一画にある、古い印刷工場。外観はそのままに、内装をリノベーションして生まれたImpact HUB Tokyoは、まるで秘密基地かラボラトリーのような佇まいをしています。


世界各地にあるImpact HUBの多くは、「よいコミュニティは、プライベートとビジネスが交差する空間に生まれる」という経験則に基づいて、住宅地と商業地の交わるエリアに位置しています。また、コミュニティの変化に対応していくために、原状回復義務なしに自由に作り変えられることは必須条件でした。一般的なオフィス選びの常識からは逸脱していますが、目黒駅から少し離れた印刷工場跡地は、こうした条件にぴったり当てはまる物件でした。現地に足を運んだファウンダーは、ひと目で「ここにつくろう」と決め、仲間に声をかけながら自ら掃除やペンキ塗りに取り掛かり始めたと言います。

総面積は440平米。扉を開けると、ドリップコーヒーの香りが漂うなカフェスペースに迎えられ、広いキッチンスペースとそれを取り囲むようにソファが配置されたラウンジがあります。


壁にはメンバーの写真や最新のイベント情報が掲示され、左手には、200人収容可能なイベントスペース。


一転して、キッチンスペースの奥はワークスペースです。いくつかの個性的なミーティングスペースと、ゆとりのあるデスクスペースや、個室のワークスペースが設置されています。


これらのすべてが同じフロアにあり、常に何が起こっているかを見渡すことができるにもかかわらず、パブリックな空間とプライベートな空間が区切られ、メンバーは静かに仕事に集中できるできる環境が整っています。

自分たちでDIYするこだわりと、変化への対応



Impact HUB Tokyoの空間には、日本国内で製造されたものや、中古品、リメイクされた家具などが多く使われています。高い家具を買ってきて「はい終わり!」ではなく、エシカルな家具のソーシングを心がけ、大切に直しながら使っているのです。

使いやすく、頑丈で、コミュニティの変化に合わせてフレキシブルに使いこなせる家具を、工夫してDIYしながら用意するのが、日常の風景です。Impact HUB Tokyoに付帯している駐車場が、DIY広場になることもしばしば。例えば、Impact HUB Tokyoにはたくさんの卓球台が、手作りのホワイトボードへと変身して、日々のディスカッションに欠かせないツールになっています。


作業スペースの机やイスにも、独自のこだわりがあります。デザイン会社の協力を得てメンバー有志で手作りしている机は、アメーバのように自由に組み合わせて拡張できる形をしています。四角の机は一つもなく、斜めに向かい合うよう工夫されているので、作業中には他者の目線が気にならず、対話のときは話し合いがスムーズに進みます。空間を彩る照明も、場所によって色合いや明るさが様々に設定されています。照明の傾向は国によって大きく異なるため、様々な国籍を持ったメンバーに合わせ、好みの場所で落ち着いて集中できるよう配慮されています。

空間がインパクト創出に与える影響


Impact HUB Tokyoには個室も用意されていますが、そこに入居するスタートアップ・チームも、しばらくするとコワーキングエリアに出てくることが増えます。これまでの観察によれば、個室を飛び出して共有スペースで賑やかに仕事に取り組むチームのほうが、より成長していくとか。多様な人たちとのコミュニケーションが新たなアイディアやコラボレーションにつながる、という側面にもありますが、孤独に業務に取り組むよりも、他者と話しながらのほうがエネルギーが湧いてくるからでしょう。


ファウンダーが「キッチンはHUBのなかのHUB(中枢)」と語るように、いつもコーヒーメーカーの周りではメンバーがマグを片手に雑談しています。「コーヒー入ってるけど、どう?」という何気ないひとことから会話が盛り上がり、気がつくと通りかかったメンバーも巻き込んで、ラウンジで真剣なミーティングが始まっていることも珍しくありません。Impact HUB Tokyoにおけるコラボレーションは、会議室ではなくオープンスペースから生まれているのです。

立地から内部空間まで、画一的な従来型のオフィスとは対照的なコワーキングスペース。そこには、効率の追求ではなく、いかにコラボレーションを通してインパクトを生み出すかを探求するImpact HUB Tokyoの価値観が現れています。

革命は”コーヒーショップ”から始まる


Hogarth William (1884)

Impact HUB Tokyoが空間づくりにこだわるのは、コワーキングスペースを「作業する場所」ではなく、「インパクトが生まれる空間」だと考えているからです。米国のライター、スティーブン・ジョンソンは、TEDのスピーチ”Where good ideas come from”でこう語っています。
「人々は、アイディアを”孤独に熟考してひらめくもの”と思い込んでいる。しかし実際には、新しいアイディアとは、多様な人々が集まって議論する場で生まれるものなのだ」

彼は、イギリスの産業革命はコーヒーショップなしでは成立しなかった、と言います。当時、様々なバックグラウンドの人々が、新しい飲み物であるコーヒーを求めてカフェに集い、雑然とした環境で議論を交わしていました。「それ以前には存在し得なかった混沌とした空間から、世界を変える新しいアイディアやアクションがうまれてきた」のです。彼はこうしたイノベーションを生み出す人のつながりを「リキッド・ネットワーク(流動的なネットワーク)」と表現しています。

では、多様な人々が集まって議論する空間があれば、次々とコラボレーションが生まれるのでしょうか。人々が集うコミュニティを観察していると、全員が同じ会話に参加しているわけではないことがわかります。数人での密度の濃い対話からアイディアの種が生まれ、別の場所に移動して新たな対話を通してブラッシュアップされていくーーーこうした集合離散を繰り返すうちに、アイディアは孵化していきます。コミュニティからアクションを数多く生み出していくには、こうした「小さなノード(結節点)」に注目し、その動きを活性化することが必要なのです。

Impact HUB Tokyoでは、コミュニティを観察し、そこからヒントを得て、有形無形の仕掛けを試すことで、空間からうまれるアウトカムを最大化しています。そうした日々の営みによってノウハウが蓄積され、コミュニティの実験が加速するラボラトリーとしての進化を、続けているのです。

(取材・構成:石川孔明)