Impact HUB Tokyo

Members' STORY

vol.1 アートとイラストレーションの境界線:クライアントワークを客観視できる場

2017.09.02
Pocket

2017年7月17日からImpact HUB Tokyoにて、個展を開催したメンバーであるアーティストの牛木匡憲さん。Impact HUB Tokyoスタッフの島地が行ったインタビューをリライトしました。オリジナル記事はこちら→


アーティストが描くイラストレーションの付加価値

DSC_0055

-まず、皆さんに牛木さんがどんなことをやっているのかご紹介したいと思いますので、普段職業として何をしているかや、現在の活動状況など簡単に自己紹介をお願いします。

牛木:一言で言うのも難しいですね(笑)

-職業はイラストレーターということになりますか?

牛木:はい、収入源ベースでいえば「イラストレーター」・・・ということになるのかな?

ただ、「イラストレーター」を名乗った場合での仕事と、「アーティスト」という付加価値をつけてのイラストレーションの仕事では全然種類がちがうので、一応、職業的には「アーティスト」としてやっています。

-では、今回の個展に関しても「イラストレーター」というアイデンティティよりも、「アーティスト」として知らしめるほうがふさわしいという感じでしょうか?

牛木:僕の場合は、普段子育てをしているという事情で、いわゆる売れているイラストレーターの方がやるように、ガリガリ作品を量産できない状況があります。であれば、金額的にはそう変わらないかもしれませんが、現代アートの作家が描くイラストレーションのほうが、付加価値があるようなイメージがある。だから、そうした時間的な制約と、将来的に自分の作品が消費されていくにしても、もう少し価値のある消費のされ方をしてほしいという気持ちがありまして(笑)、どちらかといえばアーティストがクライアントワークのイラストレーションを請け負っている、というテンションでいます。
ただ、今後、私生活の状況が変わって、子供が大きくなったらイラストレーターを名乗ったほうが仕事が回しやすいかもしれません。とはいえ、イラストレーターとしてバンバンやってゆくと、どうしても流行り廃りのある世界で、長くて3年ぐらいでもたなくなるようにも見ています。まあ、それは現代アートの世界でもあることではありますが・・・。なので今後どうやっていくかは、見極めつつ臨機応変にやっていこう、と。

もしかしたら、現代アート一筋でやっている人には大変失礼になっちゃうかもしれないんですが、僕の場合はプライオリティが違っています。ビジネスの後にアートがあって、彼らの場合はアートの次にビジネスがあるのかもしれない。そのあたりは根本的に考え方が違うので、仮に失礼に思われることがあろうとも、僕はそういうやり方を通していきたいと思っています。

-今までにやった中で、何か代表的なお仕事をご紹介してもらえますか?

牛木:代表的なところでいうと、昨年(2016年)の伊勢丹のクリスマスキャンペーンの仕事です。40名ぐらいのアーティストが参加しており、僕は新宿伊勢丹本店のキャラクターを担当しました。

Impact HUB Tokyoはクライアントワークを客観視できる場所

middle

-牛木さんは、Impact HUB Tokyoを利用しているメンバーでもあるわけですが、いつ頃からいらしゃっているのでしょうか?

牛木:ちょっと記憶が曖昧なところもあるのですが、大体2年ぐらい前からですかね。

-ここを利用する目的やきっかけはどういうものだったのですか?

牛木:子供がいることもあって、自宅で仕事ができない状態のときに利用するというのも一つにはあります。

あと、絵描きやイラストレーターは引きこもりがちなので、直接関わらないにしても周囲に仕事をしている人がいる状況で仕事をしていると、こちらも触発されるというか。
実際には誰も見ていないにしても、こちらが頑張っている姿を見てもらっている感みたいなものが重要な気がする、というか。
なんかうまい言い方ないですかね?(笑)

仲間内すぎるとつい喋ってばかりになっちゃうし…。

-適度な緊張感や距離がありつつ、人がいる安心感みたいなものも感じながら仕事できると?

牛木:そうですね。一人でいると無限に心配や不安が膨らんでいってしまって…。例えば、休み時間とかにテレビのワイドショーとか見てしまったりして、大丈夫かな?なんて(笑)。無駄に自分の将来やら、もっとマクロに地球の未来のことなんか考えてしまって、どんどんネガティブになっちゃったりするんですが(笑)

自分が絵を描く意味もよくわからなくなってきちゃったりとか…。考えなくてもいいことばかり考えたりして。

-ある意味アーティストっぽいお悩みですよね。

牛木:それがこういった場所に来ると絶対にないんですよね。客観的に取り組めるというか。アーティストはどうしても自分を探しながら作業するところがあるので、本来キャンバスに向かう場合は一人のほうがいいんですけど、クライアントワークをやる場合には客観視が必要になるので、ここでの作業はそういうことには向いていますね。

そういう意味ではいわゆるアーティストがこういう場所を使うことはないのかなと。デザイナーやイラストレーターさんのほうが、ある程度こういう場所にいてやりやすいかと思います。

アートにビジネスとしての結果を求める理由

bottom

-今回、Impact HUB Tokyoの本格的なアートプロジェクトの第一弾として個展を行われるわけですが、このプロジェクトにいたる経緯を教えていただけますか?

牛木:普段、Impact HUB Tokyoには週に一回か二回ほど来ているのですが、あるときメンバーランチに参加していました。その時、Impact HUB Tokyoの共同創業者のポチエさんに、我が家に余っている作品がいっぱいあって、捨てようと思っているポスターがあるのでよかったら差し上げます、と話したんです。

以前から、ポチエさんがアートや音楽に大変興味があるということを聞いていたので、「見たい、欲しい!」と言ってくれて、その後すぐにコワーキングエリアに貼り出してもらいました。ちょうどその頃六本木で行っていた展覧会に、創業者の槌屋さんも来てもらえて、よくよく話してみれば、槌屋さんがImpact HUB Tokyoでギャラリーやることを以前から熱望している、というお話を伺ったんです。

ポチエさんのほうには、Impact HUB Tokyoをよりクリエイターが集まるようなスペースにしたいという想いがあるということで、意気投合し、個展をやらせていただくことになりました。

ただ、それに関してはちょっと不安な思いもあるというか。Impact HUB Tokyoにとって具体的なKPIに反映されるようなベネフィットがないとこちらとしては、やらせてもらって申し訳ないという実感になっています。

-そういったお話を聞くと意外ですが、アーティストである牛木さんのほうが逆にビジネス的な結果を意識しているんですね。

牛木:じつは、僕としてはアートやイラストレーションの界隈でありがちな、なあなあにしてやっている現状が好きではないんです。それだったらやりたくないぐらいに思っていて、ちゃんとビジネスとして成立して儲かってくることが見えてこないと、さすがに生活ができないなという意識があります。

-ということは、それはご自分のプロフィットとしての結果がほしいということなんですか?

牛木:それもそうですし、同時に業界への思いも結構あって…。僕の若い頃とても輝いて見えたアーティストの世界を目指して進んできたわけですが、自分が実際その世界に入ってみるとみんな儲からないというか、お金の動きの鈍さみたいなものが見えてきて…。
もちろんうまくいっている人もいるとは思うのですが、全体的に
他と比べて優位性のない中でのし上がっていくのは、なんかもう、絵や作品がよければいい、という問題ではなくなっているなあと。結婚とか子供とか、そういったものを全部諦めて没頭できる人しか、続けられないような状態は良くないな、と思って。

-なるほどー。そういう意味では、ビジネスライクとまではいかずとも、それなりのビジョンを持って活動なさっているんですね。ちょっと珍しいタイプのような気もします。

牛木:じつはアートに関しては3回か4回は諦めていて、今は4回目か5回目の挑戦で4年目という感じで、今回もいつ諦めてしまうかわからないんですが…。
そういう挫折があったからこそその辺りは深く考えているというか。
自分勝手に好きなものを作るみたいなことは目標に持ってはいけない、それは違うなと。

過去には結構鬱々と悩んでいる時もあって、なんでやっているんだろうかとか、僕の描いている絵は僕が嫌っている絵と大差があるんだろうかとか…。だから、自分のやっていることにちゃんと正当な理由を持たないとやっていけなくなってしまったんです。

-つまり、ご自分である種のフラッグを立てることによって、そこに向かって行くことで、作風なり指針なり決めてゆけるというようなことでしょうか?

牛木:そう、そうですね。作風ということに関してはまさに、ちょっと予期せぬ部分でもあるんですが、あー作風というのはそういうふうに決まっていくものなんだなと、後から思う部分はありました。

例えば僕はファイターとか、強いヒーロー像を描いているんですが、そういったものには一般的に武器が出てくるんですが、「いや、武器は描かない」みたいなポリシーが生まれてきたりして、そうしていくと絵が強固になっていくんです。ふにゃふにゃとしたものではなくそれなりの理由が付いてくる。まあ、そういうのも後付けではあるんですが。

-でもそういった中から、今のキャラクターが生まれて来たのは確かなんですね。

牛木:そうですね。なにか人を楽しませたいとか、驚かせたいとか、そういうサービス精神の塊みたいな…それの抽象化みたいな(笑)。それを自分のキャラクターを媒介としてそういう形につなげられたら、というのもあります。

それもこれも、ただ夢見心地で言っているだけではなく、ちゃんとビジネスとして結実するバランスを持っていかないと、僕がそういうことをダラダラ展開していて若い人の目を引いていってしまって、それに下手に憧れられたりするとまた悪影響を及ぼすみたいな(笑)

➖なんとなく牛木さんのお話の背後には、業界に対する問題意識みたいなものもありますね。

牛木:僕らの世代だけではないかもしれないですが、なんとなく親からの先入観といいますか、結婚はしなきゃいけないとか、子供は産まなきゃいけないという刷り込みがどうしてもあり、その中でアーティストを目指すみたいなことはとても矛盾してました。

そこで壁にぶつかってしまい、それじゃあできないな、みたいなことで3回ぐらい挫折して…。

自分の中での葛藤に度々負けてきたと。

牛木:はい。一方で子供がいる生活の良さにも気づくことができたので、それを諦めてまで絵を描かなくてもいいぞ、という思いもあるんですよ。

決して偏見を持っているわけではないですが、女性に対しては特に子供を諦めてまで絵を描かなくてもいいんじゃないかと思っています。僕自身多くの感動を得ているし、子供って多分クリエイティブなことだと思うんです。なのでクリエイティブなことを愛している人たちが子供を諦めるというのは残念な話だな、と。

 

Impact HUB Tokyoはビジネスとアートが出会う場所になり得るか?

➖Impact HUB Tokyoの特徴的なこととしてコミュニティ意識を大事にしているという側面があります。先ほども話題になりましたが、Impact HUB Tokyoとしてはアーティストやクリエイターをこのコミュニティ内に増やしたいという思いがあります。そうしたコミュニティとの関わりへの印象や、Impact HUB Tokyoというコミュニティ自体への印象などどのようにお持ちですか?

牛木:クリエイターが集まる場所になったら魅力的だと思いますね。実際には、今、カフェや飲み屋さん的な空間で、クリエイターが経営しているところもいくつかあります。金曜日の夜にいけばイラストレーターやデザイナーなど誰かが必ずいて、そこで盛り上がるみたいなのは。でも、特にお酒が入るわけでもなく、陽の光を浴びた中でクリエイティブな話ができる場所はそうそうないので、そういうのはいいんじゃないかと思います。

皆一人でやっていることが多いので、僕のように寂しさや虚しさや、鬱々とする感じがここに来てリセットされるような場所があるのはいいのかな、と。
また、そこで展覧会をやっていると、人が集まるいいきっかけにもなると思うし、ただコーヒーを飲みに行くだけでなく、もうちょっとクリエイティブな口実があるのはいいですね。

➖僕自身、日頃イラストレーターしても活動していますが、過去には広告を中心として受注仕事をするのがイラストレーターの仕事でしたが、今は自分たちで仕事を作っていくことも必要になってきていると思います。それがあってこのコミュニティに参加したということもあるのですが、一方で、企業が新しいビジネスの軸としてアートやクリエイティブを真剣に取り入れていくことが求められているという話もあります。

牛木さんが日頃活動する中で、そのような気運を感じるようなところはありますか?

牛木:今まさに来ている仕事は、そうした考え方に則っている、というお話は聞きました。詳細は言えませんが、例えば広告で一つの商品を扱う際、それにまつわるいろいろな要素を洗い出していってその一つをプロモーションで使うということは以前からやっていることです。
その中でも近頃はアートやデザインに関わる部分が少しでもあれば、そこを重要視するような傾向はあると思います。

➖例えばImpact HUB Tokyoのこの場所でも、スタートアップの起業家と、これからここにやってくるかもしれないクリエイターとのコラボレーションが生まれるとか、そういうことに対する期待感は持てそうでしょうか?

牛木:そういう期待はすごくありますよ。でも、それには何かしら、通訳的な役柄・役割ができる人が必要だなと感じます。

僕自身、Impact HUB Tokyoに入ってみて、起業家たちとのビジネスのテンションも違うし、彼らのアートに対する考え方にも距離がある感じがしています。そこで、こちらのやっていることを価値のあるものとして考えてくれれば最高ですが、自分たちでもできるけどちょっと変わったものがほしいからやってよ、というような具合ですと、今までと変わらないですし。

そのような状態で、お金のあるスタートアップ企業ならいいですが(笑)、今はお金もないのでタダ同然でやりますよ、みたいな話を始めちゃうともうキリがないですからね(笑)

 


牛木匡憲(うしきまさのり)
1981年生まれ。武蔵野美術大学卒業、文具メーカー、ウェブ制作会社、ゲームグラフィッカーを経て現在アーティストとしてイラストや展覧会などを通して国内外で活躍中。NHK Eテレ『シャキーン!』や伊勢丹新宿店クリスマスキャンペーン、TOYOTAカローラ50周年ムービー出演、サーマソニックでのライブペインティングなど。イラストレーション、広告、イベント、映像、SNSなど様々なジャンルでその存在感を発揮している。http://www.ushikima.com/